無題

昨夜のこと。

仕事が終わって夜10時。
スマホを見ると、
午後3時に母からの着信アリ
留守電もメールもない。
何事かと思い、すぐさま電話する。

あぁ。みーちゃん。
ごめぇん。なんでもないの。
解決したの。もう大丈夫なの。

「え?なんだったん?」

なんかねぇ。急にねぇ。
歌手の名前が思い出せんで
イライラして。
もう、無性にイライラして
眠れなくなってねぇ。
でも宏ちゃんが思い出してくれた〜。

「なんだそりゃ…
なんかあったんかと思うたよ」

ごめん。ごめん。大丈夫よー。

帰宅して誰の名前を思い出せなかったのか
問うたところ、えーっと、誰だっけ…
と、また思い出せずイライラし始める。
ふとテーブルの上に置いてある
広告の裏のメモ書きを母が見つけ

ああ!シルヴィ・バルタン

と小さく叫んだ。

「良かったね。思い出せて。
ce soir je serai la plus belle
pour aller à danser…」

と歌ってみせると

そう。それそれ。
と言った。

もう、寝るね。と母が言い、
「分かった。私は軽くごはん食べて寝る」
と、夜食の準備をしていると
突然血相を変えた母が台所にやって来た。

また来た…!
みーちゃん。どうしよう…。

というので、2日前と同様、
強過ぎる薬の副作用で
嘔吐するのかな…と身構えていると

ほら!
すごく歌の上手いフランス人の女の子で
ママが前にCD買って
みーちゃんに貸してあげたやつ!
あの子の名前なんだっけ?!
あぁ!すごい!イライラする…!

と言い出した。

なんなんだ、この症状は。

「待って。調べるから」
と落ち着き払って応えると

さすが、みーちゃん!
みーちゃんが居てくれて良かった!

と感動される。

「私が居てよかったし、
なによりiPhoneを作った
ジョブズに感謝だね」
と気取って言うと

ホントだ。ホントだ。感謝だ
と言った。

母が知りたかったのは
ZAZという
モンマルトルの街角で歌って
有名になった歌手だった。

一体なんだってフランスの歌手を
思い出したがったのだろう。
母の脳にどのように作用しているのだろう。
何はともあれ、母はまだ
しばらくは逝かないだろうなぁと思った。

…と、ここまで書いて思い直す。
今まで大好きだったヒトやモノの名前を
思い出せなくなるのって
辛いことだよなぁ、と。
山口晃や神田松之丞の名前が
咄嗟に出てこなくなるのを
想像すると、ゾッとする。

思い出そうとする気力があるだけ
いいのかもしれない。
そのうち、きっと、
考える力も無くなっていくのだろうな。

今を生きよう。楽しもう。
こうして、youtube
ZAZの歌声を聴きながら
ひとつひとつ好きなモノを噛み締めれたら
それでいいんだ。