無題

一昨日と昨日と
私が一泊二日で旅行していた間
宏ちゃんはまたうちに泊まった。
(なぜ泊まりに来るのだろう
(母に線香とお供えをあげるため?
(母と過ごした部屋で思い出に浸るため?
(生活費、少しは出してほしい。

旅行のお土産があることを伝えると
とても嬉しそうに、またうちに来た。

お昼ごはんを食べながら
土産話をして、30分そこそこで
私は席を離れた。

お骨をどうするか
この家をどうするか
母の持ち物をどうするか

ずっと悩んでいるのだけれど
相談しても
「思うようにすればいい」とだけ言う

母は墓に入りたくない、
ハワイの綺麗な海に撒いてほしい
と言っていたので
そのようにする、と伝えると
横浜や川崎にある共同墓地の話を
ウダウダとし始めて
胸糞が悪くなった。

引っ越すにしても
膨大な遺品整理を全部私に任せて
(好きなようにして、と言いながら
コレは高く売れる
アレは買ったばかり
ソレはまだ使える
と、ウダウダ言う
私は極力モノを増やしたくない
1人で充分暮らせるモノを既に持っている
処分しなければいけない
モノを手放さなくてはいけない苦しみを
人に押し付けておいて
勝手に口挟んでんじゃねぇよ

私は、結局のところ、
宏ちゃんを恨んでいるのだ。

お前が一緒に居ながら…
お前と一緒に居たせいで…

そんな事を言っても仕方ないから
言わない
本人が一番そう後悔しているだろうから
言わない

宏ちゃんは、決して、家族ではない
母の恋人だった人だ
今はもう、母はいない
家族はもういない

私は冷たい人間なのだろうか

無題

6月5日に母が転倒してから
宏ちゃんは所用が無い限り
うちに泊まっていた。

宏ちゃんの家は隣の県にあり
うちまで約2時間かかる。
交通費も片道1000円近くかかる。

母が入院している間も泊まった。
「泊まった」というのも
「帰ってきた」というのも
どちらも違和感を覚えるのだが。
一応「おかえりなさい」という。
(時々「お疲れさまです」ともいう。

火葬の後も寝泊まりしていた。
母が寝ていたベッドに寝そべって。

宏ちゃんはしばらく仕事をしていない。
仕事をしていないおかげで、
母に付きっきりで
看病してもらえたのでありがたい。

が、しかし。
母が居ない今、
宏ちゃんがうちに来て、
母が愛用していたマッサージチェアに座り
私が買った扇風機に当たりながら
母たっての希望で買った大型4Kテレビを
私が日中汗水垂らして働いている間
のほほん〜と観ている

と思うと、腑に落ちない。

宏ちゃんはヘビースモーカーだ。
家の中では決して吸わないように、
と母がうるさく躾したせいか
部屋では吸わない。

ビーチサンダルを履いて
家の周りを散歩しながら
吸っているようだ。

先日、朝起きて台所に行くと
ゴミ箱からタバコの臭いがした。
まさか、と開けてみると
可燃ゴミと一緒に吸い殻が捨ててあった。

その日は朝の目覚めがすこぶる悪くて
怒りがこみ上げて来た。
家でタバコのゴミは
一切持ち込まないでくださいっ
と吐き捨てるように言い、
朝食も取らないまま出掛けた。

宏ちゃんの顔をまともに見れなかったが
戸惑いと申し訳無さと悲しさが
混じった声色で
「あ、ごめんね」って言った。

それっきり、宏ちゃんは
うちに泊まっていない。
私が仕事に行っている間、
お線香をあげに来ているようだ。
リンゴやキウイやモモやサクランボや
栗饅頭やカステラ、大福を
お供えしてくれている。

帰宅すると
台所の豆電球が点いてて
それが嬉しいけど、切ない。
「お帰りなさい。お疲れさまです。
ジュースを作ったので
飲んでください。」と
置き手紙をしてくれる。

リンゴとニンジンとレモンで作ったジュース
甘さと瑞々しさが全細胞に沁みる。

このままでは駄目だ。
母と暮らすために借りたこの家には
結局2ヶ月も居なかった母の
沢山の希望が詰まりすぎている。

上野公園を散歩したい
動物園のパスポートを買って毎日通いたい
美術館にも行きたい
友達を沢山作りたい

願いを叶えてあげられなかった無力感に
宏ちゃんも私も心が潰れそうになる。

なお、恋人はいない

今の一軒家に1人で住み続けるか。
元の一人暮らし用の部屋に戻るか。
ペット可物件を探すか。
恋人の家に転がり込むか。

恋人とペット可の物件に移り住むの
最高だなぁ!!!!!

無題

朝9時に火葬場に行った

宏ちゃんが車を出してくれたけど
私は寝起きからとても不機嫌で
多分、雨と低気圧と
寝不足のせいで
あまり会話をする気になれなかった

こんな状態の時、この歳になって
甘えてるなぁと自責するのだが
反面、私はある意味「可哀想」だし
という開き直れるようになった

端的にいうと
図々しくなったのだと思う
(気を遣って良い子でいることを
放棄して自己愛が高まるなら
それでいいのだ!

棺桶の中で眠る母は
死後1週間経ってしまったけど
思ったほど変化はなかった

白や紫の洋花を
母の枕元にひとつひとつ並べる
母のおでこや前髪に触れた
冷蔵庫から出したばかりのように
とてもとても冷たい

葬祭場の方々の言動が
ステマチックで救われる
儀式っていいものだなぁ

焼香のあげ方が分からなかった
右隣の宏ちゃんを盗み見ながら
真似した

宏ちゃんは泣いていた
泣くんだ、と、少し驚いた
私はあまり泣けなかった
本当は声を上げて
泣きたいけど
泣き出すと止まらないので我慢した
(その後、帰宅して
1人になった時に骨壷を抱いて
号泣した

焼き終わるまでの1時間
斎場の喫茶室で
母の思い出話をしながら待った

宏ちゃんが母のこと好きだったんだな
って改めて分かって
もう、それだけでいいや
私から言いたくても言わないでいる事を
宏ちゃんは痛いほど分かっているはずだ

家に帰ってきた
14日の朝、入院に付き添ったことが
随分前のことのように感じる
介護タクシーの人に車椅子に乗せられて
無表情の母
悟りきったような顔

これで良かったのだ
と、言い聞かす
ああすればよかった、こうすれば
と考えてしまうと
もう、一歩も動けなくなる

やれる範囲のベストは尽くした
やれなかったことは
自分自身や
他の大切な誰かに果たしていこう

こんなことを言ったら嫌われるかもしれない
なんて心配をしなくてもいい人を
失った

こんなことを言ったら嫌われるって思わずに
なんでも話してくれる人を
失った

かけがえのない人が
居なくなった
さみしい、すごくさみしい

気丈に振る舞って
仕事も休まず働いているけれども
(仕事に救われている
仕事以外の私は
生気が無いような顔をしている

最近よく思う
子供がほしい
この人の子供を産んで
一緒に育てたいと
思える人に会いたい

父の日

2017年6月18日2時40分、母が死んだ。父の日に、母が死んだ。強くて逞しくて美しくて面白くて料理上手で世話好きで健かで、よく笑い、よく泣き、愛し愛された母が死んだ。

 

死んだけど、いつでも話し掛ければ近くにいる。私は特定の宗教を持っていないけれど、母を心の拠り所に生きてみようと思う。人生を味わい尽くしたい。したいことをする。行きたいところに行く。逢いたい人に逢う。食べたいものを食べる。授かったものを使い切りたい。大丈夫。私は大丈夫。大丈夫。